自己紹介
現在、スウェーデン交通庁で道路交通情報・交通管理の開発とデジタル化を担当しています。これまで、スウェーデン道路・交通研究所(VTI)、スウェーデン・イノベーション庁(VINNOVA)、企業省/インフラ省で職務を経験してきました。
直近では2019年から2024年にかけてスウェーデン交通庁の部門長を務め、大規模な鉄道容量計画プロジェクトや欧州共同プロジェクト(TTR)を主導しました。また、2010年から2020年まで「Women’s Issues in Transportation」(現 Women and Gender in Transportation)委員会の委員を務め、交通分野におけるジェンダー課題に一貫して関心を持ってきました。
本稿では、私のキャリアを通じてスウェーデンの交通分野で大きなジェンダー影響をもたらした出来事を紹介し、それに基づくメッセージをお伝えします。
スウェーデン政府の交通分野での取り組み
スウェーデン政府は長年にわたりジェンダー平等を推進し、早期から施策を開始しました。とりわけ1994年には、すべての議会委員会の勧告にジェンダー平等への言及を含めることを内閣決定で義務づけ、あらゆる政策分野でジェンダー主流化を主要テーマとしました。
交通分野での転機は2001年に訪れました。1994年の内閣決定を受け、スウェーデン議会は交通政策において「ジェンダー平等の推進」を6つの下位目標の一つとして追加しました。以降、ジェンダー平等は交通政策の主要テーマと認識され、男女の移動行動の違いに関する報告の義務化など、2009年までさまざまな施策が実施されました。*1
ただし、政府の取り組みが常に成功したわけではありません。交通政策の目標は2006年と2009年に改定され、2009年の改定では、ジェンダー平等は下位目標からアクセシビリティ目標の一部へと格下げされました。2001年の目標では対象として「男性と女性」が明確に示されていましたが、2009年の下位目標ではこれが「すべての人」などの曖昧な表現に置き換えられました。その結果、具体的な対象へのフォーカスが失われ、政策のフォローアップを具体化することが難しくなり、交通分野のジェンダー施策は停滞してしまいました。
直近では2020年、スウェーデンのジェンダー平等庁が、ジェンダー関連の取り組みを進める政府機関に補助金を交付し、ジェンダー施策への関心が再燃しました。同庁は57の政府機関に資金を配分し、それぞれの機関が所掌分野で予算を活用する形をとりました。たとえばスウェーデン交通庁は、2015年以降中断していた「性別ごとの自動車・公共交通の利用頻度や目的に関する全国調査」を再開するために、この補助金を活用しました。
スウェーデン交通政策の歴史からの教訓
ジェンダー主流化は重要ですが、政策目標として表面的に取り入れるだけでは真のジェンダー平等は達成できないと考えています。2009年の交通政策改定後、分野内のジェンダー施策が停滞したのは、目標に「ジェンダー」を入れること自体が重視される一方で、誰を対象にしているのか、そしてその目標に基づくフォローアップをどのように行うのかという具体的検討が不十分だったことが一因です。明確な対象と実現手法を伴わない目標は、単なる願望に過ぎません。
施策立案の際に考慮すべき点
目標設定の後に具体策を検討する際は、「ジェンダーブラインド」になっていないかに留意し、行動やニーズの差異を客観的に把握するため、性別で分けた統計に着目することが重要です。
例えば、20年前に実施された調査では、多くの男性が交通システムを設計する際、保育園の送迎や買い物といった家事関連の用務を考慮していないことが明らかになりました。当時の交通システムは通勤に最適化されており、その他のニーズは考慮されていませんでした。
データに基づく分析を行うことで、ジェンダーブラインドを脱し、性差に根差した幅広いニーズを浮き彫りにすることが可能になります。
メッセージ
結論として、ジェンダー平等の推進には、政策目標の設定だけでなく、誰を対象にし、どう実現するのかという具体的検討、そして性別で分けたデータに基づく客観的な分析が不可欠です。交通分野をはじめ、他の分野でも、具体的で実効性のあるジェンダー応答型の取り組みが今後も継続していくことを願っています。
*1 主な取り組みの一つは交通分野の全国調査でした。2002年から2005年にかけて、運輸省所管のスウェーデン交通通信分析研究所(SIKA)が、ジェンダー平等を所管する省から研究助成を受け、性別ごとの利用実態や、交通システムの整備/運用が与える影響に関する調査を実施し、年次フォローアップ報告書を作成しました。結果はスウェーデンの交通政策目標の年次フォローアップ報告書で報告され、政府の年度予算案にも要約が盛り込まれ、進捗状況が定期的に可視化されました。交通分野の政策立案に必要なデータが一般に不足していたため、運輸省の下にある他機関も政府委託研究を実施しました。