フランス

「今行動することで、日本は自国の交通システムを強化するだけでなく、未来志向のモビリティ分野で地域のリーダーとなる機会を得ることができます」- Magdalena Olczak Rancitelli(ITF)

交通政策にジェンダー視点を統合する実践的アプローチ

プロフェッショナルとしての歩みとジェンダー平等への関わり

私は国際関係および政策立案の分野で20年以上の経験があり、現在はOECDにある国際交通フォーラム(ITF)でシニアマネージャーとして勤務しています。ITF年次サミットのプログラム策定、外部機関とのパートナーシップの調整、そしてITFのジェンダー関連業務の調整を担っています。2004年にOECDに入って以来、ジェンダー平等を始めとして、消費者・競争政策、企業の社会的責任、環境戦略など幅広い政策分野で活動してきました。2020年にはTransformative Urban Mobility Initiativeによって「Remarkable Women in Transport」の一人として表彰される栄誉を受けました。

私がジェンダーを取り巻く問題に興味を持ったのは、2010年に遡ります。当時、雇用・起業・教育におけるジェンダーギャップに関する報告書の作成に関わり、これが「OECDジェンダー・イニシアティブ」の立ち上げにつながりました。OECD雇用労働社会問題局での経験を通じて、ジェンダーの問題は社会的、経済的、文化的な要因によって形作られる複雑なものであると気づかされました。ジェンダーは単なる社会にとっての「サブテーマ」のように扱われるべきものではなく、経済や環境にも深く関わる、良い統治と効果的な政策立案のための「中核的なテーマ」として据えられるべきものと考えています。

交通分野におけるジェンダー平等の推進

2015年にITFに加わった際、交通分野でのジェンダー平等は社会の大きな盲点であり、世界の交通業界の労働者のうち、女性はわずか17%しかいない状況を目の当たりにしました。原因を深掘っていくと、交通モードを問わず共通する課題もあれば、地域固有の課題も存在することが分かります。男女別分析データの不足、この問題に充てられる人的・財政的リソースの不足、政治的なコミットメントの欠如、公共交通におけるジェンダーに基づく暴力、交通へのアクセシビリティの差の問題などはどの地域も基本的に共通している課題です。一方で、例えば地中海地域、中東、北アフリカ、南アジア、サブサハラ・アフリカなどでは、交通分野における女性の雇用に対する文化的・教育的な障壁が依然として根強く残っています。

このような中、ITFの年次サミットを活用し、交通分野の大臣や業界のリーダー、主要なステークホルダーが一堂に会して、ジェンダーの課題を議論する場を作ってきました。また、交通分野におけるジェンダー関連の重要な課題について議論するため、全てのステークホルダーが定期的に集まるITF年次ジェンダー・コンサルテーションを創設しました。2015年の第1回では15〜20の組織が集まる小さな会合でしたが、2025年の第10回には70以上のステークホルダーが参加する主要なプラットフォームへと成長し、交通分野のジェンダー平等に関する優良事例の共有や具体的な行動の促進が行われています。

こうした対話と並行して、ITFはエビデンスに基づく政策立案にも注力しました。ITFは、女性の交通利用者としての行動と、交通分野の労働力としての参加の両面に関する調査を通じて、交通分野におけるジェンダーの分析基盤を初めて構築しました。これらの研究は、ITFの活動全般にジェンダー主流化を進めるための知識基盤を築くとともに、ITFの活動全般におけるジェンダー視点の主流化を後押ししました。

現在、私はジェンダーに関する幅広い取り組みを統括するとともに、ITF内の他の同僚と連携し、調査研究、政策対話、啓発活動に取り組んでいます。取り組む課題は、アクセスの不平等、ジェンダーに基づく暴力やステレオタイプなど、多岐にわたります。また、ジェンダー、交通、気候変動の関連性に関するエビデンスを強化しており、COP(気候変動枠組条約締約国会議)でも数年にわたり成果を発表してきました。

交通政策へのジェンダー視点の統合

2021年にITF加盟国が交通政策にどのようにジェンダーの視点を取り入れているかを評価したところ、積極的にジェンダーの視点を取り入れている国は約40%のみであることが分かりました。女性と男性とで交通システムをどのように体験し、利用しているかには明らかな違いがあるにもかかわらず、交通政策は歴史的に、ジェンダーの視点をほとんど考慮せずに策定されてきました。主な障壁となっているのは、男女別の分析データの不足です。データがなければ、ギャップを把握し、インクルーシブな政策を策定することが困難になります。そのため、ITFは「交通政策のためのジェンダー分析ツールキット(Gender Analysis Toolkit for Transport Policies)」を開発しました。この実用的なオンラインツールは、政策立案者が交通政策にジェンダーの視点を組み込むことを支援するものです。ITFではこれを利用して、ネットワークのレジリエンス、インフォーマル交通、AIやスキルに関連する分野など、いくつかのプロジェクトにおいてジェンダーの視点を組み込んでいます。

インパクトと学び

このツールキットは、ITF内でジェンダーを「サブテーマ」から「重要な分析軸」へと地位を押し上げました。例えば、このツールキットは、交通の脱炭素化に関する調査、都市における歩行・自転車利用環境の質的向上の調査、ソウル首都圏のアクセシビリティに関する調査など、いくつかの主要な報告書へのジェンダー視点の組み込みを支援しました。また、「すべての人の持続可能なアクセシビリティ」報告書では、アクセシビリティがジェンダーだけでなく年齢、障害、所得、地域などによっても左右されることが示され、より交差的なアプローチが促進されました。

依然として、データ不足や専任リソース不足などの組織的な課題は残っていますが、このツールキットの経験を通じて、実用的で使いやすいツールが組織変革を促し、政策分野全体におけるジェンダー視点の統合を後押しし得ることを示しました。

日本へのメッセージ

日本は今、重要な局面を迎えています。交通政策にジェンダーの視点を取り入れることは、単に社会的視点を付け加えるといったものではなく、交通に関する意思決定の質、妥当性、長期的な持続可能性を高めるといった重要な意味を持ちます。ジェンダー平等に投資する国は、より安全でアクセスしやすく、レジリエントで、人々の移動ニーズにより適した交通システムを構築しています。

これまでの経験から、意味のある進展は往々にして、男女別データの収集、適切な政策課題の設定、そして日常的な意思決定へのジェンダー視点の組み込みといった実践的な取り組みから始まることが分かっています。ITFは日本と協力し、実証に基づいた研究や具体的なツールを共有するとともに、すでにこの分野で進んでいる国々との相互交流をする準備があります。

今行動することで、日本は自国の交通システムを強化するだけでなく、インクルーシブでレジリエントかつ持続可能なモビリティ分野で地域のリーダーとなる機会を得ることができます。そうすることで、交通システムがすべての利用者に真に役立ち、よりインクルーシブで公正な社会の実現に貢献できるのです。

※ 各インタビューは所属組織のものではなく個人の見解です。また、所属・タイトル等はインタビュー当時のものです(2026年3月更新)

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