自己紹介―ジェンダーへの関心
ジェンダーに関心を持ったきっかけは、国土交通省に入省する前に留学していたオーストラリアでの学生生活です。
現地では、例えばバスの女性ドライバーを見かけることは珍しくなく、公共空間ではジェンダーの観点から安全確保を呼びかけるポスターやキャンペーンなども日常的に目にしていました。また、大学の友人との会話でもジェンダーが話題になることがあり、日本とは異なる価値観や社会の在り方に触れる機会が多くありました。当時は、日本ではあまり意識されていないテーマだという印象を持っていました。
その後、国土交通省に入省し、最初の配属先である国際政策課で、国際会議において交通とジェンダーが政策課題として議論されていることを知りました。学生時代に感じていたことが、諸外国では行政の政策として位置付けられていることを実感するとともに、日本でもこうした視点を政策に取り入れられないかと考えるようになりました。
国際政策課に在籍した約1年半は、交通分野におけるジェンダーの視点を国土交通省として模索し始めた時期だったと感じています。もともと関心を持っていたテーマに業務として携わることができ、試行錯誤の連続ではありましたが、大きなやりがいを感じるとともに、ジェンダーへの関心もさらに深まりました。
現在は鉄道局に所属し、ローカル鉄道の今後の方向性の検討や、法改正など制度設計に関わる業務を担当しています。鉄道行政に携わる立場から、引き続きジェンダーと交通への関心も温めているところです。
取り組んでいるプロジェクト/これまでの取組
国際政策課で携わった、交通分野におけるジェンダーの取組は、今でも特に印象に残っている仕事です。
2023年後半、課内では、日本の質の高いインフラの海外展開という日本から海外への方向のみならず、海外の交通政策のトレンドを日本に紹介し、今後の政策立案の参考となる情報を提供する、という反対の方向にも力を入れようという議論がありました。そこで私は、ITFやG7など国際会議で議論されているテーマを整理し、日本ではまだあまり馴染みのない政策分野を調査・分析しました。その中で浮かび上がったのが、「交通とAI」「交通と健康」、そして「交通とジェンダー」といったテーマです。ブレインストーミングを重ねる中で、私は特に「交通とジェンダー」の分野を深掘りし、国際的な議論や各国の取組について、報告書を読み漁りながら調査・整理を進めました。
その後、交通とジェンダーへの関心は省内でも徐々に高まり、私は関係部局との調整を担当しました。例えば、内閣府が取りまとめる「女性版骨太の方針」に、交通分野の視点を新たに盛り込むことにも携わりました。当時は、「交通とジェンダー」という考え方自体がまだ十分浸透しておらず、各部局とも見慣れない言葉に戸惑いの声も少なくありませんでした。粘り強く説明を重ね、四苦八苦しながらも一つひとつ形になっていくことに大きなやりがいを感じました。
そんな矢先、G7交通大臣会合がミラノで開催され、当時の国土交通大臣に同行して会議に参加する機会を得ました。会合では、国土交通大臣から、交通とジェンダーをテーマに国際的な取組を進めることが発信され、ITFと連携した「ジェンダーと交通」セミナーの開催も表明されました。
私自身も、その後このセミナーの企画・運営に携わりました。国際的な議論を紹介するとともに、日本の交通事業者によるインクルーシブな交通や女性活躍の取組を発信する機会となり、大変印象深い経験でした。また、女性の社会進出という点では必ずしも先進的とは言えない日本から、交通分野におけるジェンダーの取組を積極的に発信したことに対し、各国から関心を持って受け止められたことも強く印象に残っています。
今後の展望/メッセージ
冒頭でもお話ししたように、学生時代に留学したオーストラリアでは、ジェンダーが政策として議論されているだけでなく、まちづくりや公共交通など身近な場面にもその視点が浸透していることを実感しました。当時の私にとっては新鮮な驚きであるとともに、「いつか日本の交通行政でも、このような視点が自然に取り入れられるようになれば」という思いを抱くきっかけになりました。
現在は鉄道行政に携わる中で、鉄道事業の現場や業界が抱える課題に触れる機会が増えました。一方で、交通分野におけるジェンダーの視点を、どのように日本の政策へ落とし込んでいくべきかについては、私自身まだ模索している段階です。
国際政策課では、海外における交通とジェンダーの取組について数多く調査しました。例えば、朝夕のラッシュ時だけでなく、子どもの送迎や通院、買い物など、多様な移動ニーズを踏まえた運賃設定やダイヤの工夫、駅や車両の設計・運用において、安全性や使いやすさの観点を取り入れる事例などがあります。こうした取組は、女性をはじめ、多様な利用者にとって利用しやすい交通を目指すものです。
しかし、これらをそのまま日本に取り入れることが最適解とは考えていません。各国で交通事業の仕組みや利用者のニーズ、文化的背景は異なるため、それぞれの社会に適した形を模索していくことが重要だと思っています。
その一方で、日本の交通業界は、担い手不足や地域の移動手段の確保など、大きな課題に直面しています。こうした課題の解決を考える上で、ジェンダーの視点を取り入れることが、新たな可能性につながる場面もあるのではないかと感じています。
今後も国土交通分野のさまざまな業界や政策に携わりながら知見を深め、ジェンダーを規範・理念として語るだけでなく、それを日本の実情に即した形で政策に取り込んでいく仕事に携わっていきたいと考えています。


