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「"無意識のうちに抜け落ちていたジェンダーの視点を取り入れることで、すべての人々にとって暮らしやすいものになっていく"というイメージが社会で共有できるようになったら嬉しい」- 宮脇 可那子(国土交通省)

無意識のうちに抜け落ちていたジェンダーの視点を取り入れることで、すべての人々にとって暮らしやすいものになっていく

「“無意識のうちに抜け落ちていたジェンダーの視点を取り入れることで、すべての人々にとって暮らしやすいものになっていく”というイメージが社会で共有できるようになったら嬉しい」- 宮脇 可那子(国土交通省)

自己紹介、ジェンダーへの関心

私は、学生時代を女子校で過ごしたこともあり、10代の頃から「女性というだけで選択肢が狭められる社会であってはならない」という問題意識があったことから、いわゆるジェンダーに関する事柄について深い関心を持っていました。 一方で、「女の子だから」と言われることなく伸び伸びと過ごしてきたことで、恵まれたことに、私個人としては「女性」であることを理由とした不自由はあまり経験してこなかったと感じています。ジェンダーに関わる問題をどこか自分事にしきれていなかったとも言えるかもしれません。 そうした中、国土交通分野というフィルターを通してジェンダーについて考え始め、具体的な生活の場面を1つ1つ切り取ってみると、「飛行機に乗るときは上の棚に荷物を上げたいけど、背が低くて力も足りないから諦めようかな」「夜道を歩くとき、街灯が少ないと、暗くて怖いな」など、実は様々な困りごとを持っていたことがわかってきました。 これは自分の生活にジェンダーの視点を取り入れたことによって、初めて実感できたことであり、単に不便だと感じていたことや個人の問題だと通り過ぎていたことの中に、実はジェンダーの差異によって生じているものが含まれている場合があるのだと身をもって感じ始めています。

取り組んだこと

私が総合政策局国際政策課に着任した時は、その直前の2024年7月25日に『ジェンダーと交通セミナー』が開催されたばかりで、ジェンダー主流化の推進に向け、まさに第一歩が踏み出されたタイミングでした。 欧米などと比べ、日本では、ジェンダーの視点を取り入れる「ジェンダー主流化」という考え方自体が浸透していないのが現状です。そのため、引き続き「ジェンダー主流化とは何か」「国土交通分野におけるジェンダー主流化がなぜ重要か」について発信していくため、国際政策課では、田中由紀 前国際統括官のもと、国際政策課が関わるあらゆるマルチな場を活用して情報収集を継続しました。 当時私が配属されていた班では、具体的にAPEC、ASEAN、OECD、UNESCAPなどの国際会議において、国交省から積極的にジェンダー主流化について問題提起を行ったほか、国際交通フォーラム(ITF)との関係では、『ジェンダーと交通セミナー』を皮切りに様々な関連会合でコラボさせていただきました。 私自身も現地へ出張し、ITFの大臣級会合であるITFサミットにてジェンダーに関するサイドイベントに出席したり、ASEANの交通ワーキンググループでジェンダー主流化に関する日本の取組を紹介したり、主体的な発信をさせてもらいましたが、諸外国が集う国際会議で議論することで、ジェンダー主流化に関する国際的な議論の潮流を肌で感じることができ、大変貴重な機会だったと感じています。 また、各国から「日本はジェンダー主流化に関心がある」と認識してもらったことで、ジェンダー主流化に取り組む担当者とつながることができたことも大きな収穫だったと思います。スウェーデン、カナダ、イギリスには個別にオンラインでヒアリングをさせてもらいましたが、各国の事情に応じて、実際にどのようにジェンダー主流化を政策に落とし込んでいったのかなどを聞くことができ、今後の取組方針を検討する上で、非常に有益な情報となりました。何より、彼らがとても熱量高くジェンダー主流化について語ってくれたことが大変印象的で、世界中でジェンダー主流化に熱心に取り組む人がいるという事実に心強い気持ちになったことをよく覚えています。 こうした国際会議で得た知見を国内に還元していく動きとしては、共生社会政策課とともに「ジェンダー主流化に向けた若手・中堅女性職員による懇談会」を省内で開催しました。各局で活躍する若手・中堅の女性職員にフラットに出していただいたアイデアや意見は、同性の私でも想像のつかなかったものがたくさんあり、男性職員だけでなく女性職員にとっても新しい発見になる機会になったのではないかと感じています。

今後の展望

近年は「インクルーシブ」という言葉もよく聞かれるようになり、男女といった性別にとどまらず、子どもやお年寄り、障害のある方、外国の方など、誰もが生き生きと暮らすことができる社会を目指す「共生社会」という考え方が広く浸透しています。 他方で、ジェンダー平等について語られるとき、よく「Equality(平等)」と「Equity(公平)」の違いが話題となるように、ジェンダー格差を捉える場合には「Equality(平等)」だけではなく、「Equity(公平)」という観点を持ち続けることも重要だと感じるようになりました。多様性というマクロな観点だけなく、ジェンダー格差のように、従前から見落とされてきた潜在的な差異を意識的に認識する必要があるのではないかと思います。 たとえば、ジェンダー主流化について勉強を始めたときに私が大変驚いたのは、自動車の衝突実験の事例です。キャロライン・クリアド=ペレス著『存在しない女たち:男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く』では、衝突実験に用いられるダミー人形は、長年、平均的な成人男性の体格に基づいたものとされていたこと、女性のデータが十分に考慮されてこなかったために、女性は自動車事故で怪我をしやすい「重傷格差」が生じていたということが指摘されています。衝突実験は、誰にとっても安全であることを確認するために行われていますが、実験者が男性と女性の体格の違いなどを認識していない場合には、このような格差が取り残されてしまうということだと感じました。 ただ、ジェンダーというと「女性」を特別視するものと誤解されてしまいやすいですが、先述の自動車の衝突実験では、現在は男性だけでなく女性や子どもの体格のダミー人形も用いた実験が行われるようになり、女性にとどまらず、すべての人々の安全が高まるようになりました。 日本の公共空間や社会経済では、男性と女性で、課題やニーズが異なる場面が少なからず存在し、国土交通分野においては、「子供や荷物を抱えた女性は、徒歩移動や公共交通利用の際の不便が多い」「公共空間では、嫌がらせや暴力の対象となりやすい女性は、不安を感じることが多い」などと言われています。ジェンダー主流化は、こうした男女で異なる課題に目を向け、それぞれのニーズに丁寧に対応して、あらゆる政策や事業などを立案・実行していこうとする取組です。 暮らしや社会との関わりが深い国土交通省から取り組みを始めたことで、“これまで無意識のうちに抜け落ちていたジェンダーの視点を取り入れることで、男性、女性だけでなく、こども、高齢者、障害者などを含むすべての人々にとって暮らしやすいものになっていく”というイメージが社会で共有できるようになったら嬉しく思いますし、個人としても国土交通省職員としても、私も考え続けていきたいと思っています。

※ 各インタビューは所属組織のものではなく個人の見解です。また、所属・タイトル等はインタビュー当時のものです(2026年3月更新)

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